貴方の見ているドメインは

ドメイン www.nordic-walk.net

このページについて

    看護婦がそつと上つて来た。

    「じゃそのお松まつと言う女はどうしたんです?」

    練吉はそれなり黙つた。

    今の家へは、温泉がぬるいというのを承知の上で越してきた。

    と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。

    房一は擽くすぐつたさうな顔をしていた。

    と云ったそうだ。

    半シャツの男が進み出た。

    その住居の端々はしばしにまで行きわたつている潔癖さは、同時に大石正文夫妻の年来の好み、その生活の信条といつた風なものをも漠然と現はしていた。

    彼は自転車[#「自転車」は底本では「自転者」]にのつた。走り出した。風が頬をかすめた。房一の紅黒い、生真面目な、醜い、厚ぽつたい顔が目の前にのこつていた。

    「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」

    と、腰をたゝいてみせた。そこにはまだ一足、紙衣の下からはみ出すやうに、ぶら下つていた。

    こういう不便が多々ある代りに、むかしの温泉宿は病を養うに足るような、安らかな暢のびやかな気分に富んでいた。今の温泉宿は万事が便利である代りに、なんとなくがさついて落着きのない、一夜どまりの旅館式になってしまった。一利一害、まことに已やむを得ないのであろう。

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40